たまたまザイール、またコンゴ

田中真知「たまたまザイール、またコンゴ」

1991年のザイール、2012年のコンゴ。著者は、21年の歳月を隔てて、ザイール/コンゴ河の同じルートを丸木舟で旅する。一度目は夫婦で、二度目は若い研究者と。

91年のザイールはモブツ独裁政権下。意外なことにバックパッカーもそれなりにいて、ハードだが、どこかのんびりした旅が続く。

大河流域を数ヶ月かけて往復するというオナトラ船にまず度肝を抜かれる。「町のような」というと大げさな喩えに思われそうだが、巨大なオナトラ船は文字通り町として機能している。艀を複数つなぎ、数千人が暮らす甲板には、ワニからサルまで、物、人、動植物が溢れ、沿岸部の村も含めて一つの経済圏を形成している。

90年代後半に入ると、隣国ルワンダの内戦の余波でモブツ政権は崩壊し、コンゴも泥沼の内戦に入った。周辺国の介入でアフリカ大戦の様相を呈した紛争は00年代に入って停戦したものの、その傷跡は大きく、12年の旅は軍の監視、賄賂の要求などをかいくぐり、陰鬱な調子で続く。

植民地支配の負の遺産、資源を巡る終わりなき争いなど、今のアフリカの諸問題が浮かび上がる。同時に、それ以上に、そこで暮らす人々の息づかいが伝わってくる、旅の魅力に溢れた一冊。

著者は、旅から得た実感として「世界は偶然と突然でできている」と書く。未来をコントロールできるという幻想が人の苦しみを増している。旅をすると、さまざまなトラブルに遭う。旅の明日は予想できない。予定通り生きようという思い込みを捨てた時、心がふっと軽くなる。

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