さむけ

ロス・マクドナルド「さむけ」

探偵リュウ・アーチャーシリーズの第12作で、最高傑作と言われることも多い「さむけ」。原題は”The Chill”。

物語は、結婚直後に失踪した妻の捜索願いから始まる。やがて殺人事件が起こり、そこに過去の二つの殺人事件が絡む。

人と会って話を訊き、別の場所に行って、また人と会って話を訊く。その繰り返しで物語は混迷を深めていき、驚きとともに寒気に襲われる結末に至る。シンプルすぎるほどシンプルな構成で、ミステリー史に残る物語が紡がれる。この達成は、小説の奇跡と言っても大げさではないのでは。

孤独でタフな私立探偵という設定はハードボイルドの定番だが、アーチャーの人物像は、チャンドラーが生み出したフィリップ・マーロウとはだいぶ異なる。アーチャーは「タフでなければ生きられない。優しくなければ生きる資格がない」、「さよならをいうのは少し死ぬことだ」のような台詞は決して言わない。現実を一歩引いて眺めているようなまなざしは、ハードボイルドの熱心なファンではない自分のような読者をも強く物語に引き込む。

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