スマホ脳

アンデシュ・ハンセン「スマホ脳」

スマートフォンは社会を変えただけでなく、人間をも変質させるかもしれない。

テレビやゲームに加え、そもそも印刷された本ですら、登場した当時は警戒された。しかし、スマホをはじめとする21世紀のデジタル端末の生活への浸透具合は、過去の様々なメディアとは比較にならない。

スマホが手元にあると、ついつい新しい通知がないか、新しいニュースがないか、チェックしてしまう。もはや仕事でも日常でも、スマホ無しの生活は考えられない。著者は「人間にはすぐ気が散るという自然な衝動があり、スマホはまさにそこをハッキングした」と書く。フェイスブック元幹部の「私たちが作り出したのは、短絡的なドーパミンを原動力にした、永遠に続くフィードバックのループだ。それが既存の社会機能を壊してしまった」という言葉も引用されている。

脳は新しい情報に快楽を感じ、さらに確実に得られる情報より、得られるかもしれないという不確かな状況の方がドーパミンが放出されるという。

現代社会は人類の歴史でみればほんのわずかな時間にすぎない。人類が狩猟採集生活を送り、気が散りやすい方が生き延びる可能性は高かった時代と、脳の仕組みはあまり変わっていないようだ。

スマホが近くにあるだけでも学習効果が落ち、テーブルの上に置かれているだけでも相手の印象に影響が出るという研究結果は象徴的だ。たとえ無視するとしても、無視することに脳はリソースを割かれる。

集中力が必要な社会になっているのに、デジタル端末は集中力を削ぐ方向に働く。結果的にフィードバックのループに囚われた人と、それ以外の人の2極化が進むのかもしれない。

タイトルだけ見ると「ゲーム脳」のような疑似科学を連想してしまうが、ヒトの脳に対する知見や様々な先行研究を踏まえた内容になっており、説得力がある。「スマホはほどほどに」「体を動かすべし」と言われると、余計なお世話だよ、と言い返したくなるけど、その忠告には耳を傾けるべきなのだろう。

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