北方探検の英傑 近藤重蔵とその息子

久保田暁一「北方探検の英傑 近藤重蔵とその息子」

江戸時代後期、千島列島をはじめとする蝦夷地を探検し、北方の開拓・防備に大きな功績を残したものの、不遇の後半生を送った近藤重蔵。その息子で、殺人に手を染めてしまい、流刑先の八丈島で「八丈実記」という大部の地誌を記した近藤富蔵。数奇な運命を辿った父子の物語。

重蔵は最上徳内とともに北方を探検し、択捉島に「大日本恵土呂府」の木柱を立てた。その後は書物奉行として多くの書を著したが、頑固で自信過剰な性格が災いして左遷され、別荘の敷地争いを巡って息子の富蔵が起こした死傷事件に連座し、預け先の近江・大溝藩で没した。

一方の富蔵は偉大で抑圧的な父のもとでコンプレックスを抱えて育つ。出奔して仏門に入ったものの、父の許しを得て家に戻り、事件を起こしてしまう。八丈島での53年間の流人生活の末、明治政府に赦免されて本土に戻るが、父の墓参や西国巡礼の後、再び八丈島に帰ることを選ぶ。

非常に起伏に富んだ生涯を歩んだ親子だが、取り上げた書物は意外に少ない。本書は小説の体裁を取っているが、綿密な文献調査に基づいた貴重な伝記となっている。2人の生涯を通じて、人生の不思議を思わされる。

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