日本では、探検家といってもあまり具体的な名前が浮かばない人が多いかもしれない。小さな島国で、未踏の地、未知の地とはあまり縁がなかったようなイメージがあるが、実際には多くの探検家や旅行者が辺境を調査し、“国土”を切り開いてきた。
流刑先の八丈島で「八丈実記」という詳細な地誌を残した近藤富蔵。東北を歩き、民衆の生活誌を細かく記した菅江真澄。蝦夷地の内陸部を踏査した松浦武四郎。南西諸島と千島列島の調査に先鞭を付けた笹森儀助。4人の半生を中心に、辺境を歩いた先人の業績を語る。
辺地であっても同じように人々が生きて暮らしている。その人々のことを知り、生活の改善を図ろうとする姿勢は、民俗学者であると同時に生活指導者でもあった著者、宮本常一自身の姿に重なる。
本来、こうした辺境をめぐる歴史こそ「日本史」として学ぶべき知識だと思うが、中央による収奪や植民地支配という側面と切り離せないし、恒久不変の領土という中央の視点からは、あまり掘り下げたくない内容なのかもしれない。