一日に一字学べば…

桐竹勘十郎「一日に一字学べば…」

桐竹勘十郎の芸は、人形に息を吹き込む、という表現が大げさではないことを教えてくれる。

14歳で入門して芸歴50年。修行の日々を振り返りつつ、文楽と人形への思いを語る。芸談というよりも、修行や仕事についての経験談となっており、文楽に興味のない人にも勧められる内容。好きであること、不安だから努力すること、自分で考えること。文楽の世界だけでなく、働くこと全般について考えさせられる。もちろん文楽の入門書としても優れた一冊。

89歳で引退した竹本住太夫は「一生では修行に足りない」と語っていた。50年修行を積んで、やっと本番。そんな世界が今でもあること。そして、そこで自分と同世代や、もっと若い世代が修行を積んでいることに、なんだか励まされる。

タイトルは「菅原伝授手習鑑」の名台詞から(諺自体はそれ以前からあるようだけど)。寺子屋で8歳の菅秀才(道真の息子)が自習をサボる15歳の阿呆をたしなめて「一日に一字学べば三百六十字との教へ、そんな事(落書き)書かずとも本の清書したがよい」

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