好色一代男、雨月物語ほか 池澤夏樹=個人編集 日本文学全集11

池澤夏樹=個人編集 日本文学全集11
好色一代男/雨月物語/通言総籬/春色梅児誉美

江戸文学の豊かさとレベルの高さがよく分かる一冊。

「好色一代男」は“女3742人、男725人”と交わった男、世之介の一代記。7歳から60歳までを1年1話で綴り、1話完結の連載漫画のようなテンポの良さ。世之介、7歳、夏の夜。子守の女中に「恋は闇というのを知らないか」と迫り、10歳で早くも男色に目覚める。後半にいくにつれて徐々にマンネリ化していくのも連載漫画っぽい。
島田雅彦訳は原文のリズムを残して軽妙だが、少し読みにくいかも。

そして「雨月物語」。円城塔の訳が素晴らしい。美文で名高い石川淳訳を何度か読み返してきたが、この新訳も精緻で流麗。そこに恐怖や儚さも滲む。新たな決定版だろう。

続く2本は、それぞれに工夫をこらした訳で大きな成果を上げている。

「通言総籬」は洒落本の最高傑作と言われる山東京伝の作品。遊郭の様子や女郎の噂話などが綴られているだけで、そこに物語は一切無い。いとうせいこうは、そこに膨大な注釈(本文と同量)を付けて充実した“遊郭ガイドブック”に仕上げた。

島本理生は「春色梅児誉美」を章ごとに登場人物の一人称で訳し下ろした。イケメンを巡る三角関係。まるで現代の恋愛小説。登場人物のキャラが立っていて、読みながらニヤニヤしてしまう。

江戸時代には、こうした読み物に加え、無数の浄瑠璃が作られ、古典の注釈本も広く流通した。宗教性ではなく、エンタメ性を追究した作品をこれだけ生み出した江戸時代というのは、世界史でも類を見ない安定した社会だったと言える。

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