良寛 旅と人生 <ビギナーズ・クラシックス 日本の古典>

松本市壽「良寛 旅と人生 <ビギナーズ・クラシックス 日本の古典>」

非常によくまとまっていて入門にも最適の一冊。個人的には良寛というと漢詩のイメージが強かったが、改めてその作品と生涯に触れ、晩年の歌が強く心に残った。

「手ぬぐひで 年をかくすや 盆踊り」
「形見とて 何残すらむ 春は花 夏ほととぎす 秋はもみぢ葉」

良寛は江戸後期、文化・経済の爛熟期を生きた禅僧で、歌人、書家としても知られる。名家の長男に生まれたが出家し、生涯寺を持たずに庵を移り住み、清貧の思想を貫いた。決して厭世的な人物ではなく、近所の子供たちと鞠つきをして遊び、酒もたしなみ、晩年まで様々な人々と交流した。特に最晩年には40歳年下の貞心尼と心を通わせている。

生涯懶立身(生涯身を立つるに懶く)
騰々任天真(騰々天真に任す)
嚢中三升米(嚢中三升の米)
炉辺一束薪(炉辺一束の薪)
誰問迷悟跡(誰か問わん迷悟の跡)
何知名利塵(何ぞ知らん名利の塵)
夜雨草庵裡(夜雨草庵の裡)
雙脚等間伸(双脚等閑に伸ばす)

立身出世に興味が無いと述べ、迷いも悟りも関係ないと言い切った良寛の代表作と言えるこの漢詩は、個人的にも座右の銘といっても良いくらい共感するが、一方で晩年の、病気の苦しみを率直な言葉で綴り、自らを慕う貞心尼への愛情を詠み、老いを受け入れ難いと感じる自分すら受け入れてしまう軽やかな境地には、人としての生き方の理想を見るようだ。

「いついつと 待ちにし人は 来たりけり いまは相見て 何か思はん」
「うらを見せ おもてを見せて 散るもみぢ」

(あなたに)裏も表も見せて生きてきたからもう悔いはない。
なんて人間くさい、そして格好良い末期の句だろう。

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