グアテマラの弟

片桐はいり「グアテマラの弟」

エッセイの名手とは聞いたことがあったが、これほど素敵な文章を書く人だとは。グアテマラで暮らしている弟を訪ねた旅の話に、幼い頃の家族の思い出などが挟まれる。少し手を入れるだけで、それぞれのエピソードがそのまま洒落た短編小説になりそうな趣がある。

大学院を出てから、ふらふらと中南米に旅行に行き、グアテマラに居着いてしまった弟。スペイン語学校を開いている年上の妻と結婚し、その連れ子と父と息子の関係を築き、彼はいつの間にか現地に根を下ろしていた。

何年もの間、ほぼ音信不通だった弟の家にファクスが置かれ、やがてネットがつながり、IP電話で疎遠だった日本の家族との距離が急速に縮まっていく。

言葉の通じない嫁と義理の孫に戸惑いつつも、それを受け入れていく両親。特に、時々弟が帰国する際のグアテマラ土産の影響でコーヒーに凝りはじめ、周囲からも一目置かれるようになった晩年の父の話がほほえましい。

著者自身も、弟とほとんど口をきかなかった思春期の記憶や、家族での幼い頃の情景を思い出しながら、弟の生き方に徐々に共感を寄せていく。

人間には、どこでも好きな場所で、誰とでも好きに生きる自由がある。そんな当たり前のことを、温かい筆致で感じさせてくれる名篇。

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