マイケル・ハート、マルクス・ガブリエル、ポール・メイソン、斎藤幸平編「未来への大分岐」
富の偏在や利潤率の低下などで資本主義は限界を迎えつつあるが、人類はまだ次の社会のあり方を見出せていない。同時に、20世紀を通じて育まれた相対主義の弊害を克服する道筋も見つけられていない。
マイケル・ハート、マルクス・ガブリエル、ポール・メイソンの3人と、カール・マルクスの再解釈で高い評価を受けた気鋭の研究者の対話集。討論と言うより、それぞれの思想、問題意識をかみ砕いて説明するような内容で、議論に入りやすい。
「理論の果たすべき役割とは、今あるシステムを批判することだけでなく、抵抗とオルタナティヴの可能性を発見し、明確な言葉にしていくこと」とハートは言う。編者は無理な延命でゾンビ化しつつある資本主義と、新たな仕組みを模索するする試みがせめぎ合う現代を大分岐の時代と位置づけ、3人との対話で選択肢を探る。
3人に共通して感じられるのが、社会運動や人間の理性への信頼。事実に立脚した「新実在論」を説くガブリエルは、情報が周知徹底されれば人間の行動は変わる(廃棄プラスチックの影響で50年後にマグロが確実に絶滅すると周知されれば、人々はプラスチックの使用をやめる)と言うが、今の日本社会を見ていると、そこまで楽観的になれない。原発から環境問題まで、現在と未来を比べ、未来のリスクを過小評価する意識をどう変えるかは非常に難しい問題だと感じる。
政治的なニヒリズムを乗り越えられるか。カリスマに率いられる形ではない水平の社会運動を広げていけるか。大きな潮流になるのかはまだ分からないが、世界に少しずつその萌芽が見え始めているのは、21世紀後半に向けてのかすかな希望である。