ジョバンニの父への旅/諸国を遍歴する二人の騎士の物語

別役実「ジョバンニの父への旅/諸国を遍歴する二人の騎士の物語」

「ジョバンニの父への旅」はタイトルから連想されるように宮沢賢治の「銀河鉄道の夜」を下敷きとしている。

23年ぶりに町に帰ってきたジョバンニの物語だが、著者の作品らしく、あらすじを説明するのは難しい。

「銀河鉄道の夜」でカムパネルラはいじめっ子のザネリを助けようとして死ぬ。町に戻ったジョバンニに、ザネリを突き落としたのではないかという疑いがかかる。ただ、そこまでにジョバンニの父、ザネリ、ザネリの子供をめぐるちぐはぐな事実、記憶が語られ、真実は分からなくなる。

終盤、ジョバンニの父らしき人物が語る言葉が強い印象を残す。

「カムパネルラに、死んでいいと言ってやれるのは、お前だけなんだ。(中略)いいか、ジョバンニ、父親というものがしなければいけないことは、すべて死んでゆくものに対して、死んでいいと言ってやることなんだ……」

死を肯定することは、存在を肯定すること、そして世界の不条理を受け入れること。ジョバンニ自身もここで初めて自らの生を手に入れたと言えるのかもしれない。

「諸国を遍歴する二人の騎士の物語」は「ドン・キホーテ」に着想した作品だろうが、物語そのものに関連はない。登場する騎士は見果てぬ夢を追うような人物ではなく、ネガティブで周りの人間を次々と殺してしまう。作品に漂う不安が現代の空気を表しているよう。

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