屍人荘の殺人

今村昌弘「屍人荘の殺人」

ゾンビに囲まれた湖畔のペンションで殺人事件が起こる。パニックホラーと本格ミステリーの見事な融合。

本格ミステリーは謎解きが肝である以上、ファンタジーや非現実的な要素を入れると興醒めになりかねない。一方で、話が面白ければ細かなことは気にならないのも小説。本作はとにかく面白い。

ゾンビに追われて洋館に、というのはホラー映画の定番中の定番だが、それを推理小説のクローズドサークルのお膳立てに利用するとは。ありそうでなかった発想。しかも、ゾンビがちゃんとトリックにも関わってくる。

奇想×ミステリーという点では、山口雅也「生ける屍の死」が、死者が蘇るという設定のもと本格ミステリーを成立させていて、初めて読んだ時に驚嘆した。「生ける屍の死」はホワイダニット(なぜ殺したか)が眼目だったが、本作は王道のハウダニット(どうやって殺したか)。ミステリーやトリックの鉱脈は掘り尽くされたと言われることもあるが、書き方次第で面白い物語は無限に生まれるのだ。

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個人的には、ゾンビものが好きなのでそれだけでポイントが高い。

ホラーやFPS、TPSといったゲームも、戦争ものやSF的な設定だと惹かれないが、ゾンビが出てくるものだけは時々無性にやりたくなる。ホラー映画もゾンビものはB級な出来でも許せる。本作でゾンビ映画オタクが、吸血鬼やフランケンシュタインなどの特徴を取り入れたロメロ型ゾンビ=モダン・ゾンビ(≠ブードゥー教のゾンビ)の登場で、吸血鬼映画の製作が下火になったと熱く語る場面があるが、人間とモンスター、現実と非現実がいい案配でミックスされたモダン・ゾンビは二十世紀エンタメホラーの偉大な発明だ。

   

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