アーティスト志望の若者たちが集まる共同住宅で暮らした日々。その頃に起こしたある事件を巡る苦い記憶。主人公は30代の終わりに差し掛かった男だが、青春時代の記憶に囚われ、自意識を持て余す彼の物語は「火花」「劇場」と同様、一種の青春小説と言っていいだろう。
「火花」も「劇場」も、フィクションに託して自分のことを書いているのだろうと感じたが、本作はその二つの物語に盛り込めなかったものを素直に綴っているような印象を受けた。結果的にドラマとしては散漫で中途半端な印象が強いが、作者自身の内省だろう対話は前2作以上に青臭くも胸を打つ。
「人間をやるのが下手だ」という言葉が作中で綴られている。上手に生きられないという悩みに共感する人は少なくないだろう。
「火花」「劇場」「人間」と来て、次作はこの路線の集大成か、新境地か。いずれにしろ、作家としての転機を迎えていると感じる。