ロートレック壮事件

筒井康隆「ロートレック壮事件」

ロートレックが多数飾られた別荘で起こる殺人事件。

ロートレックの作品が随所に挿まれ物語を彩るとともに、人物描写に著者らしいユーモアがあり、人間模様の面白さに引き込まれる。

最後に明かされるミステリーとしての仕掛けについては、フェアかアンフェアか意見が分かれそう。

<ここから、ややネタバレ>

一人称の語りを利用した叙述トリックだが、本作で使われているのは、悪く言えば、一人称小説における作家と読者の信頼関係を裏切るもの。記述そのものは緻密で、矛盾、破綻もないことが「解」で丁寧に説明される。叙述トリックになじみのない読者はかなり驚かされるはず。一方で、出すべき情報を意図的に伏せているという違和感が全体に漂っており、アンフェアだと感じる人も少ないだろう。

ただ、フェアかアンフェアかなんて小説の面白さとは関係ないと著者に怒られそうだ(実際にその通りでもある)し、本作の主眼もそこにはない。本格ミステリーというより、まずは幼い頃に体にハンデを負った主人公を取り巻く人間ドラマであり、そこに著者らしい、小説ならではの遊び心に富んだ仕掛けが施されている。

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