アラスカ 永遠なる生命

星野道夫「アラスカ 永遠なる生命(いのち)」

写真にも文章にも自然への畏敬と優しさが溢れている。こんな言葉とまなざしを持ちたい。

巻末の父の言葉。「動物がどこにいるか探さないとわからないような写真。道夫らしい撮り方だと思います」。小さな命と大きな自然。シンプルだけど、それを1枚で感じさせる写真家は他にいない。

日本の路地を旅する

上原善広「日本の路地を旅する」

中上健次が「路地」と呼んだ非差別部落。

元が雑誌の連載ということもあってあっさり気味だが、それでも十分読み応えがある。これで終わりではなく、路地出身の著者自身の物語や、路地それぞれの今をもっと読みたい。

阿房列車

内田百間「阿房列車 ―内田百間集成1」

中身が全く無いのに面白い。最近エンタメノンフィクションという言葉が使われるが、その元祖とも言える。

石川淳の作品なんかを読んでも思うけど、日本文学の文体の豊穣さはいつの間に失われたのだろう。

晴れた日は巨大仏を見に

宮田珠己「晴れた日は巨大仏を見に」

日本各地に点在する巨大仏を訪ねる旅。誰がどうして建てたのか、のようなガイドブック的視点はほぼ皆無で、ただひたすら風景とのミスマッチを楽しんでいく。

宮田珠己本としてはややパワーに欠け、「私の旅に何をする」のようなユニークさ、有無を言わせないノリが少ないのが残念。面白いけど。

インパラの朝

中村安希「インパラの朝」

26歳女性バックパッカー。アジアからアフリカを経てロカ岬への2年間。 開高健ノンフィクション賞受賞ということでルポっぽいものを期待して読んだら少し肩すかし。旅行記として見れば、現地の人や他の旅行者との距離感が絶妙で面白い。

前半はいかにも旅人の視点で違和感を感じる部分も多いけど、後半になるにつれて少しずつ変わっていく。

アフリカを食べる

松本仁一「アフリカを食べる」

「カラシニコフ」の著者の特派員時代をつづったエッセイ。山羊の骨髄、牛の生き血、インパラの刺し身……、軽い文章でアフリカの食文化が描かれているが、同時に紛争や貧困の現実も痛い程伝わる。

食をテーマとしたルポは辺見庸の「もの食う人々」が有名だが、辺見の文章はやや大仰で、時折傲慢さも感じられる。著者の年齢も連載・刊行時期もほぼ同じだが、辺見より視線が現地に近い。軽妙だが、敬意に満ちている。