「地球の歩き方」の歩き方

山口さやか、山口誠『「地球の歩き方」の歩き方』

黄色い表紙、青い小口塗りのガイドブックを手に初めての海外に出た人は少なくないのでは。

「地球の歩き方」は1979年創刊。海外旅行の自由化から15年が経っていたが、当時のガイドブックはパッケージツアーの参加者向けに異文化や観光地を紹介するものばかりで、移動手段や宿泊情報を載せた「歩き方」は画期的だった。

本書はその創刊に携わった4人、安松清氏、西川敏晴氏、藤田昭雄氏、後藤勇氏のインタビュー。「歩き方」の歩みは、そのまま日本の「自由旅行」「個人旅行」の歴史になっている。

「歩き方」を発行するダイヤモンド・ビッグ社は当時、就職情報誌や学生向けの海外研修ツアーが主力事業だった。初代編集長の安松氏は73年、自身の旅行経験をもとに、学生向けに往復航空券と鉄道などのパスだけをセットにした「自由旅行」のプログラムを売り始めた。当時の旅行業界の常識では考えられない企画だったが、徐々に参加者が増え、その体験談をまとめた文集が非売品の旅行マニュアル、さらにガイドブックに発展していった。(「歩き方」はよく「Lonely Planet」と比較されるが、アーサー・フロンマーの「Europe on 5 dollars a day」を参考にしている)

パッケージツアー以外で海外を旅行することが考えにくかった時代、創刊メンバーの狙いは自由旅行というスタイル、思想、概念を広めることだった。「歩き方」の出版もその手段の一つに過ぎなかった。当時、「自由旅行」プログラムの販売のために開いていた説明会は、さながらアジテーション演説のようだったという。

80年代後半、円高・ドル安で海外旅行者は爆発的に増えた。海外旅行の大衆化、多様化が進み、「歩き方」も、リゾートやショッピング情報の充実などリニューアルを迫られた。ガイドブックに求められる情報が増え、「迷い方」と揶揄されるようにもなった。

「歩き方」の歩みを振り返り、ガイドブックはただ旅先の情報を紹介するだけのものではないということがよく分かる。旅のスタイルを紹介し、ひいては読み手の世界を広げ、価値観を広げる導き手なのだ。

「地球の歩き方」というタイトルには、創刊メンバーの理想が全て詰まっている。「世界」や「国々」ではなく「地球」を「歩く」。自らの意志で。コスモポリタン的で、旅の醍醐味が「歩く」という言葉によく表されている。

“「地球の歩き方」の歩き方” への1件の返信

  1. はじめまして。KAZUMAKIと申します。
    とても興味深い内容でした。
    旅先の情報だけでなく、自分の価値観までもを広げることができるのは面白い内容だと思いました!
    また拝見させていただきます!
    よかったら私のチャンネルもご覧になってください!
    〈ライフハックサラリーマン〉

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