「日本の恥!」と駐妻たちに目の敵にされた伝説の雑誌、という帯の文句が目を引く。1999年にバンコクで創刊された日本語月刊誌「Gダイアリー」は、ジェントルマン(紳士)の日記という名前の通りというか、裏腹にというか、夜遊びネタの豊富さで知られたが、一方で下川裕治や高野秀行といった作家の文章や硬派なルポも載る総合誌だった(らしい)。
週刊誌の記者だった著者は疲弊して逃げるようにタイに渡り、約10年にわたってGダイアリーの編集部で働いた。といっても他の編集部員は編集長と広告営業兼務のカメラマンだけ。くせものぞろいの外部ライターをとりまとめ、自らも執筆のために昼の街から夜の街まで歩く。ライター、取材相手、読者……人生の悲喜こもごもを目にしながら、自分の人生に思いをはせる。まさに青春ドラマ。
日本との経済格差が大きかった当時、東南アジアでの日本人の振る舞いは性的搾取という側面も強く、とても美化できるようなものではない。
ただ、そこにはひと言ではまとめられない様々な人生があり、人間関係が生まれたはず。清濁併せのむようなバンコクのおかげで生きることができたという人は著者だけではないだろう。夜の街で遊んで帰るだけの観光客やエリート駐在員とは別に、日本を出てバンコクに根付いた日本人は少なくない。
著者がタイトルに掲げた「バンコクドリーム」はアメリカンドリームのような成り上がりの夢ではない。誰もが生きる場所を見つけられる、という夢がそこにあった。