川瀬慈編著「あふりこ フィクションの重奏/遍在するアフリカ」
人類学者5人の共著だが、研究報告ではなく、フィクション。
収録作は、川瀬慈「歌に震えて」「ハラールの残響」、村津蘭「太陽を喰う/夜を喰う」、ふくだぺろ「あふりか!わんだふる!」、矢野原佑史「バッファロー・ソルジャー・ラプソディー」、青木敬「クレチェウの故郷」の6編。エチオピア北部で歌を生業とする人々「ラワジ」や、西アフリカの妖術師など題材はさまざま。いずれも実験的な構成、内容で、小説、随想、散文詩などの境界を越えて、読み手を多様なアフリカの姿に誘う。
なぜ論文や研究所ではなく、フィクションなのか。学術研究は権威と紙一重で、他者を理解しようという人文科学の理念も時に傲慢な響きを持つ。一方でフィクションはオリエンタリズムに陥る危険性があるが、本書の著者5人は世界の多様性を推し進める手段としてフィクションを用いている。20世紀を通じて自然科学だけでなく人文科学も大きくパラダイムを変えてきたが、芸術/文学との融合は学問の新たな可能性を感じさせる。
編著者の前著「ストリートの精霊たち」は、エチオピア北部の都市、ゴンダールを主な舞台としたエッセイ(だろうか。ひと言でまとめるなら)。
フィールドワークで訪れた土地で出会った、物乞い、物売り、流しの楽師など、ストリートに生きるさまざまな人々の姿を綴る。学術研究ではこぼれ落ちてしまう個々の人生、生活の息吹を、短編小説から、ノンフィクション、随想のような文章まで、さまざまな語り口で浮かび上がらせようとしている。