19歳の浪人生「うーちゃん」から「おまい」=弟に向けて。方言と家庭内でのみ使われるような内輪の語り口を混ぜた独特の文体で綴られる。
物語そのものは心を病んだ「かか」=母と娘との関係というもので、決して珍しいものではない(むしろ最近はありふれている)。同じ物語を三人称や平凡な一人称で書いていたら非常につまらない作品になっただろうが、小説の表現に果敢に挑み、独自の痛みを持つ文学に昇華している。
第56回(2019年)文藝賞受賞作。選評を読むとこの文体を失敗ととらえている選考委員もいるが、個人的には、この作品においては文体と物語は不可分のものに感じた。
表面的には共通する要素はほとんどないものの、性の扱い方や、文章表現の端々に中上健次の影響が感じられる。それを粗削りだが自分の文体として再創造しており、文章に熱もある。大学生でここまで書けることに驚かされる。