自伝的、随筆的小説。新聞の日曜版に連載されたもの。回想が主だが、終盤は今の生活が綴られる。
著者は、作家であり、実業家であり、多くの作家、芸術家との恋愛遍歴でも知られる。
博打好きの父と再婚した女性を実母と思って育った少女時代から、恋も住まいも直感に従うようにして生きた日々、老いてなおまっすぐに人生の喜怒哀楽に向き合う現在(当時83歳、1983年刊)の徒然まで。
過去を楽しみ、今を楽しむ。著者の半生は「愛する」とか「大切にする」とかではなく「楽しむ」という言葉が一番しっくりくる。
鴉が空を翔ぶように、と表現しているが、誇るでもなく謙遜するでもなく、ただこう生きてきたのだというフラットな文章に精神の充足が滲む。自然体の文章は、読み手の人生も明るく肯定してくれる。