私は河原乞食・考

小沢昭一「私は河原乞食・考」

芸能は社会の周縁から生まれる。ちょうど半世紀前に刊行された名著。新劇俳優の著者は、河原乞食の系譜に連なる者として、芸能の源流を探る旅に出る。

ストリッパーをはじめとする身体を見世物とする芸についての「はだかの周辺」、香具師の社会や艶歌など流しの芸を扱った「愛嬌芸術」、同性愛と芸の関係を巡る「ホモセクシュアルについての学習」の3章で構成されている。インタビューを中心とした内容で、資料としても貴重な一冊。軽妙な文章とは裏腹に、考察は鋭い。

「みめかたちの秀れているのも、みめかたちの珍なのも(中略)天性の資質も、習練によって獲得したものも、ともに、一般を抜きんでることによって“みせるもの”として価値あるものだ」

性と信仰の境界や、猥雑なエネルギーから生まれた芸能は、伝統の衣をまとう過程で形を変え、「文化」の中に位置づけられていく。脱臭、抗菌加工された「伝統芸能」からは、人間の営みの歴史は見えてこない。

五輪や万博、インバウンドの威勢の良いかけ声のもと、伝統芸能が都合良く利用され、日本の文化が再創作されていく今こそ改めて読まれる価値がある。

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