キメラ―満洲国の肖像

山室信一「キメラ―満洲国の肖像」

仮にも国として作られながら、崩壊時に多くの資料が焼き払われたこともあり、満洲国の実像や全体像はなかなか摑みづらい。漠然としたイメージや、あるいは引き揚げ者の証言を通じて「満洲」は語られてきた。

法制思想史が専門の著者は関東軍、日本、中国のつぎはぎで作られた“キメラ”として満洲の通史を描く。そこでは、政治の実験場、軍の裏金作りの場、「五族協和」を掲げながら実態は差別に満ちた社会としての満洲の姿が明らかになる。

戦後、満洲の記憶が遠く離れるにつれ、満洲国が傀儡国家であることは認めつつも民族協和という理想を美化する傾向がある。しかし満洲では、政治的にも社会的にも、食糧の配給や工場の賃金でも、日本人、朝鮮人、満人・漢人の順で明確に差がつけられた。それは民族融和の実験ではなく、差別のモデルケースと言った方が相応しい社会ではなかったか。

もちろん当時満洲に渡った多くの人の中には、真の融和の理想に燃えた人物も大勢いただろう。ただそこにも差別に対する無意識や日本人こそが最も優れているというエスノセントリズムが蔓延していた。

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