第129回(2003年上半期)の直木賞受賞作。ある家族の物語が章ごとに視点を変えて綴られる。
道ならぬ兄妹の恋の物語は、家族一人一人の人生が語られていくうちに、歴史と記憶が織りなす重層的な物語となる。
父の視点で戦争体験と慰安婦との思い出を綴る最後の章は、作品全体の空気からすれば唐突で違和感がある。でも、だからこそ、ありきたりのドラマではない、作者が書かずにはいられなかった小説なのだと感じた。書くことが物事に対する一つの姿勢であるように、書かないこともそれに対する姿勢である。ならば書くことを選ぶという著者の強い決意が物語に生命を与えている。