芥川賞を受賞しながらも、世間から忘れられてしまった作家は少なくない。著者もその一人に挙げられることが多いが、「忘れられた」と一言で形容するには、その半生は複雑で起伏に富んでいる。
表題作は第66回(1971年下半期)の芥川賞受賞作。構成も描写も粗削りだが、占領下の沖縄での生活が少年の社会や人生に対する苛立ちと重なって息苦しいほどの熱を生んでいる。会話が沖縄の日常語で書かれ、復帰前の沖縄の姿を生々しく描いているという点で、日本の戦後文学史における記念碑的な作品でもある。
文庫版に収録されている「ちゅらかあぎ」は、集団就職で上京してからの日々を描いており、私小説的な側面が強い。
著者は芥川賞受賞後、ほとんど著作を発表することなく、文壇から姿を消した。近年になってのインタビューで、東京で生活保護を受けながら発表の予定の無い大作を書き続けていることや、本来の興味である思想・宗教的なテーマを扱っても相手にされず、“沖縄”を書くことを求める編集者との軋轢があったことが明らかになっている。