インドの食文化について書かれた紀行本やレシピ本は珍しくないが、本書のテーマは“日本の中のインド食文化”。アジア食器などの輸入販売を手がけている著者は、各地のインド料理店や食材店を巡り、異国に根付き、変化していく食文化を追う。
近年、国内のインド料理店は非常に増えた。外国料理というと他には中華くらいしかない田舎町でも、インド料理店があることは珍しくない。一方で都市部では、これまでは大きく「インド料理」「インド・ネパール料理」という看板を掲げる店が多かったが、南インドなどの地域性や、家庭料理を売りにする店が増えつつある。
こうした変化の背景には、在留インド・ネパール人の増加がある。中でもネパール人はこの20年ほどで20倍以上に増え、昨年12月時点で約89000人(インド人は約35000人、パキスタン人は約16000人)。留学生が多く、ネパール人学生向けに安価なネパール料理屋が増え、さらに出稼ぎや留学で日本に来た人々のうち一定数が日本に留まり飲食店の経営を始めるというサイクルが生まれている。以前訪れたパキスタン系の店で、店を開く前は中古車の輸出をしていたという話をされたことがあるが、そうしたパターンも多いはず。
留学や仕事で日本に来て、母国の母親に国際電話で料理の仕方を聞きながら料理に開眼し、レストランを経営するようになったエピソードなどは、異国生活の苦労がしのばれるとともに、どことなくほほえましい。
日本のインド料理店の大半はネパールかパキスタン系だが、もともとナンの食文化の無いネパール人が日本で「インド料理店」を経営する中でナン食に目覚めるケースがあることなど、食文化の変化は非常に面白い。