スマホ脳

アンデシュ・ハンセン「スマホ脳」

スマートフォンは社会を変えただけでなく、人間をも変質させるかもしれない。

テレビやゲームに加え、そもそも印刷された本ですら、登場した当時は警戒された。しかし、スマホをはじめとする21世紀のデジタル端末の生活への浸透具合は、過去の様々なメディアとは比較にならない。
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千の扉

柴崎友香「千の扉」

ふとしたことから、高齢化が進む団地で夫と暮らし始めた39歳の女性の日常を綴る。特別なことは何も起こらない。特別な人間も出てこない。人探しという物語の軸はあるものの、そこに劇的な展開はない。

著者の筆は過去と現在を行き来しながら、団地とそこで暮らした人々の記憶を浮かび上がらせる。ひと言声をかわしただけの人物にも、すれ違っただけの人にも、人生があり物語がある。
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八月の銀の雪

伊与原新「八月の銀の雪」

いま自分がいる場所、いま自分が見ている光景、いま自分が知っていること、それが全てではないことを自然科学の知識(学問全般にも当てはまるけど)は教えてくれる。それは時に、目の前しか見えなくなった人生の視野を開き、心を軽くしてくれる。科学者らしい短編集。

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新作らくごの舞台裏

小佐田定雄「新作らくごの舞台裏」

落語家は自身で新作を創ることが多く、漫才や放送番組なども手がける「演芸作家」ではなく、「落語作家」を名乗る人は少ない。著者は桂枝雀のファンから専属作家になり、次第に一門以外からの依頼も増え、前例のなかった「専業の落語作家」として活躍を続けている。これまでに創った新作落語は263本(江戸落語や古典の改作も含めると倍以上!)にもなるという。
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幻坂

有栖川有栖「幻坂」

大阪には坂が少ない。現在の市街地の大半が沖積平野で起伏がほとんどない。そのぶん、上町台地との間に並ぶ天王寺七坂は、二つの世界を結びつけるような不思議な存在感がある。真言坂、源聖寺坂、口縄坂、愛染坂、清水坂、天神坂、逢坂、という名前もいい。

本書はその七坂を舞台にした連作短編集。本格ミステリのイメージの強い作家だが、本書でつづられるのは怪談。怖いというより、不思議で切ない話が多い。
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ハレルヤ

保坂和志「ハレルヤ」

表題作と「十三夜のコインランドリー」「こことよそ」「生きる歓び」の4編を収録した短編集。

ある時期から猫の話ばかり書くようになった著者だが、この短編集も「こことよそ」以外は主に猫の話。ただ、そこにつづられているのは猫の物語ではなく、個々の猫の存在そのものであり、著者は猫を通して世界や生、死のことを考えている。
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