ピエタとトランジ<完全版>

藤野可織「ピエタとトランジ<完全版>」

周囲で殺人事件を引き起こしてしまう不思議な体質を持つトランジと、その友人ピエタの物語。もともと短編として発表された作品の物語、世界を広げたもの。

トランジは天才的頭脳で事件を解決し、ピエタが彼女の活躍を記録する。いわゆる「探偵もの」の枠組みを取ってはいるが、ミステリーやサスペンスではない。バディ小説という宣伝文句通り、二人の友情が物語の核となる。
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愛されなくても別に

武田綾乃「愛されなくても別に」

人は他者がいなくては生きていけないが、人間関係は呪縛でもある。家族、親子という関係は自分では選べないからこそ、祝福も呪いも色濃く表れる。

家族だから愛さなくてはならない、という呪いの言葉に本作は、愛されなくても別にいいじゃん、というシンプルだが力強いメッセージを突き付ける。そもそも、人と人が関係を築く上で愛は欠くべからざるものなのか(愛の定義にもよるけど)。
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ロートレック壮事件

筒井康隆「ロートレック壮事件」

ロートレックが多数飾られた別荘で起こる殺人事件。

ロートレックの作品が随所に挿まれ物語を彩るとともに、人物描写に著者らしいユーモアがあり、人間模様の面白さに引き込まれる。

最後に明かされるミステリーとしての仕掛けについては、フェアかアンフェアか意見が分かれそう。
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屍人荘の殺人

今村昌弘「屍人荘の殺人」

ゾンビに囲まれた湖畔のペンションで殺人事件が起こる。パニックホラーと本格ミステリーの見事な融合。

本格ミステリーは謎解きが肝である以上、ファンタジーや非現実的な要素を入れると興醒めになりかねない。一方で、話が面白ければ細かなことは気にならないのも小説。本作はとにかく面白い。
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Another2001

綾辻行人「Another2001」

学園ホラー×本格ミステリーの「Another」(2009年)、「Another エピソードS」(13年)に続くシリーズ最新作。前2作の3年後、おなじみの夜見山北中学を舞台に、スケールアップした“災厄”が登場人物たちを襲う。人気作の続編だが、期待を裏切らない面白さ。800ページ超を一息に読み終えた。

ホラー作品には、現実離れした設定がつきもの。そこで「あり得ない」と興醒めになるものもあれば、あり得ないからこそ想像力が刺激されることもある。「Anotherなら死んでた」がネットスラングとして流行った本シリーズは、まさに後者だろう。「死に引き込まれやすくなる」という“災厄”の設定が秀逸。
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昨日星を探した言い訳

河野裕「昨日星を探した言い訳」

いわゆるライトノベルを中心に書いてきた作家だが、作品のテーマは真摯で重い。

物語の舞台は、被征服民にルーツを持つ「緑色の目」の住民への差別、偏見が根深く残っている架空の日本。全寮制の学園に通う坂口孝文は緑の目を持つ転入生、茅森良子と知り合い、次第にひかれていく。
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一人称単数

村上春樹「一人称単数」

どれも著者自身を思わせる一人称の人物が語り手。久しぶりの一人称で書かれた前作長編「騎士団長殺し」がセルフパロディのような要素をたくさん盛り込みつつ、以前の作品とは決定的に違う手触りになっていたように、短編も一周回って別の場所にたどり着いたような著者の今を感じさせる。
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