愛されなくても別に

武田綾乃「愛されなくても別に」

人は他者がいなくては生きていけないが、人間関係は呪縛でもある。家族、親子という関係は自分では選べないからこそ、祝福も呪いも色濃く表れる。

家族だから愛さなくてはならない、という呪いの言葉に本作は、愛されなくても別にいいじゃん、というシンプルだが力強いメッセージを突き付ける。そもそも、人と人が関係を築く上で愛は欠くべからざるものなのか(愛の定義にもよるけど)。

3組の母娘の関係が物語の軸となる。浪費家の母と共依存のように生きてきた宮田、父親が殺人を犯し、娘に売春を強要する母親と暮らしていた江永、過干渉な母親に育てられ新興宗教のサークルに居場所を見つけた木村。不幸自慢と紙一重な内容ではあるが、登場人物の造形のおかげで湿っぽくならず、宮田と江永の友情が気持ちいい。

宮田のバイト仲間として登場する堀口という男は、自分に甘く他人に厳しいという典型的ないけ好かない男だが、彼も彼なりに生きづらさを抱えているようだ。彼の物語ももう少し読んでみたかった。

しかし、最近のフィクションは毒親、特に毒母ものが本当に多い。本作は血縁に囚われない結びつきを求める前向きな話だが、中には、古めかしい「母性」や「母親」像への郷愁、執着まじりの作品もある気がする。

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