ピエタとトランジ<完全版>

藤野可織「ピエタとトランジ<完全版>」

周囲で殺人事件を引き起こしてしまう不思議な体質を持つトランジと、その友人ピエタの物語。もともと短編として発表された作品の物語、世界を広げたもの。

トランジは天才的頭脳で事件を解決し、ピエタが彼女の活躍を記録する。いわゆる「探偵もの」の枠組みを取ってはいるが、ミステリーやサスペンスではない。バディ小説という宣伝文句通り、二人の友情が物語の核となる。

死を誘発するトランジの体質のせいで社会は崩壊する。強烈なディストピアの中で、歳を重ねていく二人の友情だけが静かに輝く。陰惨だが、甘ったるい世界。ただ、ここに描かれているのはきれい事の友情ではない。むしろきれい事は徹底して避けられ、現実のしがらみが次々と顔を出す。荒唐無稽な世界設定だが、現実の世界だって不条理だ。何を信じ、誰と歩み、どう生きるかは自分で選ぶしかない。

ピエタの妄想、つまり作中作というオチが付くのでは無いかという嫌な予感は杞憂だった(そうした解釈も可能だろうけど)。リアリティを超越した設定は読者を選ぶだろうが、フィクションの中にさらにフィクションの枠を作る必要は無いのだ。

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