幼な子の聖戦/天空の絵描きたち/百の夜は跳ねて

木村友祐「幼な子の聖戦」

田舎町の選挙を巡る騒動。セコい大人たちの思惑が入り乱れ、その中で追い詰められていく「おれ」。幼い、でもだからこそある意味で大人くさくもある主人公の造形が読み手を引き込む。そのぶん、狂気と暴力の結末に、無理やり物語の幕を引いたような物足りなさが残った。

併録の「天空の絵描きたち」は、ビルのガラス拭きたちの人間模様を描いたストレートな人間ドラマ。これまで単行本に収録されなかったのが不思議な傑作。ドラマ化、映画化されれば、映像でも映えそう。

その「天空の絵描きたち」が注目されたきっかけが、古市憲寿「百の夜は跳ねて」の芥川賞ノミネート。ビルのガラス拭きという舞台設定がそのまま同じで、登場人物などの描写にも共通点がある。

物語そのものは異なり、盗作ではない。アイデアの盗用と呼ぶかは微妙なラインだろうが、作品末に参考文献として明示はされている。一方で、オマージュにもなっておらず、安直なアイデアの流用という印象は拭えない。

一方で、ここには「平成くん、さようなら」よりずっとオリジナルな感性の表出を感じた。個人的な印象は、もったいない。習作として受け止められればそれほど問題視されなかっただろう。芥川賞にノミネートされてしまったのは、著者にとっても不幸だったのではないか。

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