井上章一「増補新版 霊柩車の誕生」
霊柩車はいつから、なぜ使われるようになったのか、どうしてあのデザインになったのか、という疑問から葬送の近代史を綴るスリリングな論考。
今のようなスタイルの葬儀の歴史が浅いのは知っていたが、明治以降でもこれだけ葬儀の様式が変遷していることに驚かされた。
静かな野辺の送りは、明治になって葬儀業の発展とともに華美になり、スペクタクルな葬送行列が白昼行われるようになった。ここには大名行列などの仕事を失った人足が大きな役割を果たした。これが大正期に都市交通が発達すると、市街地での行列の維持が困難になって一気に衰退し、ページェントの残渣を感じさせる宮型霊柩車が登場する。
現在に通じるゴテゴテした宮型は大正後期に大阪で作られ全国に広まったらしいが、当初は杉皮屋根や桧皮葺など多様な意匠があったらしい。その後、各地で地域色が育まれたというのも面白い。
この本の初版は1984年。読みつつ、最近豪華な霊柩車見なくなったなと思っていたら、文庫化で加筆された章で、宮型が葬祭場周辺の住民から嫌われ、シンプルな洋型に替わっていったことが説明されていた。