三浦しをん「仏果を得ず」
文楽の世界を舞台にした青春小説。役の性根を掴むことに苦心する主人公を通して、熱心な文楽ファンという三浦しをん自身の作品観も伺えて面白い。
古典は理解に苦しむ話が多いが、その雑多さは受け取る側に向かって開かれている。小説中に作品名が次々と出てくるが、解説くささが無く、著者自身かなり楽しんで書いたのでは。
内容は青春モノの王道で、こんな物語が成立するのも世襲制ではない文楽だからこそ。大阪市の補助金問題でいかにも伝統芸能のイメージが強くなってしまったが、現在も新たに若者がその道を志す、現代に生きる芸能の一つでもあるということを鮮やかに描いている。
文楽ものでは有吉佐和子の「一の糸」が昭和の大傑作だが、こちらも平成の名作として長く親しまれていくのでは。エッセイの「あやつられ文楽鑑賞」もおすすめ。