黙阿弥

河竹登志夫「黙阿弥」

河竹黙阿弥の評伝だが、天覧劇を巡る関係者の思惑など、江戸~明治の大変動期を描いた読み物としても無類の面白さ。

時代の転機は歴史上数あれど、これほど短期に、作為的に文化の変革が試みられたことは少ない。義太夫や花道は陋習なのか。歌舞伎は荒唐無稽なのか。演劇改良運動など、歌舞伎のあり方をも一変させようとする欧化の嵐の中で、江戸を代表する作者は嵐を黙してやり過ごし、引退を元の木阿弥として死ぬ直前まで書き続けた。

團十郎らが改良に熱心になる一方で、黙阿弥が欧化に迎合せず、江戸の世界にとどまったことで、歌舞伎と新劇の流れが分かれ、歌舞伎に江戸が残り得たとも言える。

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