「松緑芸話」
二代目尾上松緑の芸談。七代目幸四郎の三男で、長兄が十一代目團十郎、次兄が八代目幸四郎。六代目菊五郎に預けられたことで、音羽屋と、さらには九代目團十郎の芸を継ぐことになる。前半は幼少期から戦争体験を経ての半生記。兄たちの人柄など貴重な証言で、かつ面白い。中盤からは各演目の見せ方の工夫など。「一谷嫩軍記」の團十郎型、芝翫型の違いなどが興味深い。
いろいろな工夫が、磨かれ、型となり受け継がれていく。型があることは制限ではなく、豊かな創意工夫の源泉なのだ。
歌舞伎役者はただ父祖の名跡と芸を継いでいくだけではない。他の幹部役者、あるいは彼らと舞台をともにした名脇役の指導を仰ぎ、多様な芸を身につけていく。血のつながりだけでなく、芸がどう受け継がれているかも分かり、読み応え十分の一冊。