萩原秀三郎「鬼の復権」
能や様々な地域芸能、神事などに現れる「鬼」のイメージの考察に役立つかと思って手にとった一冊。
著者は地獄の獄卒や悪鬼ではない、仏教に取り込まれる以前の鬼のイメージを明らかにする狙いで「鬼の復権」という題を掲げているが、鬼籍という言葉など、現代でも鬼には単なる死者や亡者のイメージもある。死霊や来訪神などが鬼の原型と言われても、それほど驚きはない。むしろ、異界との通路となる戌亥の方角や、そうした世界観に対する大陸文化の影響などの考察が興味深かった。鬼が悪鬼のイメージに飛躍する瞬間を、大雑把な仮説でもいいからもっと読みたかった。