岩波書店辞典編集部編「世界の名前」
世界各地の名前に関する100のコラム。洋の東西を問わず、古代から現代まで。それぞれの地域の研究者が執筆しており、これだけバリエーションに富んだ専門家の原稿をそろえられるのは、さすが岩波。
名づけというより、姓も含めた名前のあり方の違いや共通点を面白く読んだ。日本のような家を表す姓(日本でも歴史は浅いけど)は例外で、姓のように見えても名前の一部という仕組みの方が多い。たとえばビルマには姓が無く、アウンサン(父)・スー(祖母)・チー(母)は全て名前で、このように家族の名前を組み合わせて子の名前を作るパターンも多い。エジプトでは、新しく作る本人の名前の後ろに+父+祖父と三代名前を繫げるのが通例で、ハーリド・アフマド・ザイドなら、アフマドが父、ザイドが祖父の名のため、ミスター・ザイドと呼びかけるのは誤りとなる(ただエジプト人も間違われ慣れていて、誰も訂正しないとか)。
概ねどの地域も共通しているのが、単純な一語の名前が、近代以降に街の人口が増え、人の移動も盛んになって個人の区別が難しくなり、名前に修飾がついて二語以上になったというパターン。多くは名前の後ろに誰々の子という修飾(○○ッチ、○○スキー)がついた。それが姓として固定化されても結婚で同姓にする地域は珍しく、基本的には家を表すというよりは親子関係(大抵は父子関係)を示している。
また名づけに関しては、子に「糞」や「チリ」と言った悪い名前を付けることによって、死に魅入られることを避けるといった慣習が世界中にあることが興味深かった。