ロバート・P・クリース「世界でもっとも美しい10の科学実験」
ムック本のような邦題だけど、科学史家による読み応えのある一冊。
“美”はただ整っているということだけを意味しない。優れた芸術作品は、それが絵画であっても、文学や音楽でも、世界の見え方を多少なりとも変えてしまう。それこそが美なのだとしたら、科学実験も同様に美しい。
具体的な光景を描いた小さな絵が普遍的な感傷を捉えるように、スケールの小さな実験が宇宙の仕組みを可視化する。エラトステネスは地球の外周を求め、地球が天体の一つという世界観を実感させた。量子干渉の二重スリット実験は、ミクロの世界に人間の知覚と全く異なる世界があることを鮮やかに示した。
このほか取り上げられているのは、ガリレオの斜塔と斜面の実験/ニュートンの太陽光の分解/地球の重さを量ったキャヴェンディッシュ/光の干渉に関するヤングの実験/フーコーの振り子/ミリカンの油滴実験/ラザフォードによる原子核の発見。
そのいずれもが、人々の世界の見え方を変えた。物理学の基礎知識の無い身には難解な章もあったが、芸術と実験は、世界をどう描くかの違いでしかないかもしれないと思わされた。