「歩行祭」と呼ばれる高校行事で夜通し歩く生徒たちの姿を描いた青春小説。第2回(2005年)本屋大賞受賞作。
異母きょうだいでクラスメートでもある融と貴子の関係を軸に、高校生の男女が友人や恋人、家族との関係で悩みながら生きている姿が、刻一刻と変化していく夜を背景に描かれる。
「みんなで、夜歩く。たったそれだけのことなのにね。どうして、それだけのことが、こんなに特別なんだろうね」
こうした高校生活とは縁遠かっただけに、今読んでも「いいね、青春だね」と、他人事のようにあたたかい気持ちになるだけで、感傷的になることも郷愁にかられることもないのが寂しい。
学校生活に良い思い出がある人、あるいは今まさに青春の真っただ中にいる人にとっては特別な作品になるはず。一晩という短い時間、ただ歩くだけ、という設定で登場人物一人一人に個性と魅力を与え、これだけの物語を描ききった著者の筆力に感服。