「風姿花伝」
観阿弥の教え、世阿弥の書。
世阿弥は能の美を花に喩え、花を知るために種=技芸を知るよう説く。
「花のあるやうをしらざらんは、花さかぬ時の草木をあつめてみんがごとし」
年齢に応じたあり方を知らなくては、老いても残る真の花は身につかない。現代でも花は美しさの代名詞のように語られるが、その場合、花そのものに美しさが内在するかのように考えられる。一方、世阿弥は、花の美しさは、季節ごとに咲いて散る、常にはない“珍しさ”にあるとする。見る側にとっての新鮮さこそが花であり、個人主義と結びついた現代の芸術は独善の香りが漂うが、見られることを常に意識する世阿弥にはそれがない。
有名な「秘すれば花、秘せねば花なるべからずとなり。この分目を知ること、肝要の花なり」という一文も、美を相対的なものとして考えた時の真理をついている。
幼少期の指導方法を述べた「さのみに、よきあしきとは、をしふべからず」、思うままにやらせるのが良い、という教育方針は極めて現代的。