宮本輝「道頓堀川」
宮本輝の川三部作は高校生の頃に「泥の川」「螢川」を読んでいるが、この「道頓堀川」は初めて。喫茶店に住み込みで働く大学生、過去に傷を持つ店主、ビリヤードに打ち込むその息子らの人生が繊細な筆で綴られる。読みながら道頓堀の川辺を流れる人の波と川面に揺らめくネオンの明かりが目に浮かぶ、しみじみと良い作品。
大阪の街を舞台にした作品は、古くは歌舞伎や人形浄瑠璃、そして織田作之助から最近の作家まで数え切れないほどあるけど、市井の人々の描き方などにどこか共通した空気を感じる。一方で街は描かれる姿も実際の姿も大きく変わってきているのが面白い。