なぜ私だけが苦しむのか

H.S. クシュナー「なぜ私だけが苦しむのか―現代のヨブ記」

宗教がなぜ生まれ、人間性をどう支えてきたのか。神を正当化するためにあるのではなく、人々に寄り添うという本来の宗教のあり方について考えさせられる一冊だった。

なぜ善良な人々に不幸が起こるのか。原題は“When Bad Things Happen To Good People”。ユダヤ教のラビ(聖職者)である著者の息子は難病に冒され14歳で亡くなった。神はなぜ敬虔な信徒に不幸をもたらしたのか。不幸は対象を選ばないように見える。神がいるなら、なぜ戦争は起こるのか、なぜホロコーストのような悲劇を神は許したのか。

不幸に見舞われた人を前に、多くの宗教は神の意志を弁護することに汲々としているが、不幸の理由を探ることや、あるいは「不幸にも意味がある」といった説教は当人にはなんの慰めにもならない。

そして著者は「ヨブ記」をもとに神は万能であるという前提を捨てる。神は人の幸、不幸を左右できる存在ではなく、人の運命は神とは無関係なのだと。なぜなら神は人間に自由を与えた。人は善も悪も選ぶことができる。不条理と自由は一体なのだ。

そこで初めて信仰の奇跡に気づく。万能でない神を愛することができるのか。不完全なものを愛することこそが人間らしさで、それは対象が神であろうと、人であろうと変わらない。神は万能ではないが、不幸な者とともにある(と信じることができる)。不完全なものを信じることで、人間は人間として他者と関係を結び、この世界を築いてきた。

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