檀一雄「リツ子 その愛・その死」
檀一雄の代表作の一つ。「リツ子 その愛」「リツ子 その死」の連作。
敗戦を挟んだ混乱と窮乏の時代、肺病で死にゆく妻を抱えて食糧や医者探しに奔走する日々を、どこか透徹した視点で綴った私小説。衰弱してゆく妻の姿や、妻側の親族との間に漂う微妙な空気の克明な描写が胸を締め付ける。人間関係は究極的には一対一の関係であり、誰かの死を、誰かと分かち合うことは無理なのだという事実を突きつけられる。両親をチチ、ハハと呼ぶ息子のあどけない生命の輝きが切ない。
敗戦直後の地方社会の様子がよく分かり、記録としても貴重な作品。こうした絶版本が電子書籍で復刊されるのがうれしい。