雪が降る

藤原伊織「雪が降る」

読み終えて、じんわりと良い作品だったと思う短編小説はそれなりにあるけれど、読んでいる最中に先が気になって引き込まれる物語は、短編ではあまり無い。

「台風」「雪が降る」「銀の塩」「トマト」「紅の樹」「ダリアの夏」の六編。どの作品も、途中で読み進める手を止めることなく読了。フィクションであることをいかした不器用で気障な男たちが格好良い。

収録作の内、バーで自称人魚の少女と出会う「トマト」だけが異質な雰囲気で、他の五編はさまざまな人生の断片を見事に切り取った名品。中でも、主人公の男と、彼がかつて恋した女性、その女性と結婚した職場の同僚、の三角関係を描いた表題作が美しい。

職場のパワハラで病んだ青年と、それを見過ごしてしまった自分の関係を、幼い頃の回想と絡めて描く「台風」、ヤクザの世界から逃げた青年が隣家の母子との出会いで変化していく「紅の樹」も心に残った。

コメントを残す