昨夜のカレー、明日のパン

木皿泉「昨夜のカレー、明日のパン」

夫婦作家、木皿泉の連作短編。夫の死後、ギフ(義父)と暮らす女性の話を始め、何気ない日常が鮮やかに描かれる。

たとえば、死期が迫る夫の病室からの帰り、焼きたてのパンの香りで、悲しみの中にも幸せは存在し得るし、幸せの中にも悲しみはある、と思う場面。「悲しいのに、幸せな気持ちになれるのだと知ってから、テツコは、いろいろなことを受け入れやすくなったような気がする」。幸せや不幸せという言葉にあまり囚われないようにと、読んでいるこちらもしみじみと感じる。

静かな日々が描かれるが、全編を通じて死が影を落とす。それは夫や幼なじみの具体的な死でもあり、あるいは死という概念そのものでもある。現実も同じで、誰もが死と隣り合わせに生きている。だからこそ、幸せや不幸せを越えた生き方を綴るこの作品は限りなく温かい。

「人は変わってゆくんだよ。それは、とても過酷なことだと思う。でもね、でも同時に、そのことだけが人を救ってくれるのよ」

久しぶりに良い短編を読んだ。

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