劇場

又吉直樹「劇場」

芥川賞を受賞したデビュー作「火花」があまりに話題を呼び、期待と懐疑の中での第2作。前作の延長にある作風ながら、今後も書き続けていく底力を感じさせる作品だった。

主人公は小劇場で活動を続ける劇作家。ふとしたことで知り合った女性の家に転がり込み、彼女の支えを受けながら創作活動を続ける。まるでヒモのような日々。プライドと自意識だけは人一倍で、他者より優位に立とうとしながら、そうした自分の卑小さを自覚もしていて、焦燥感を募らせる。やがて彼女との間ですれ違いが始まり、作家としても、一人の男としても、いやでも現実が目の前に迫ってくる。

売れないお笑い芸人を主人公とした前作は先輩芸人との関係が軸だったが、今作は女性との関係が物語の中心となり、恋愛小説の様相も加わった。前作同様、青春小説であり、人生論、創作論でもある。

自分は他人のことをよく分かっていて、他人は自分のことを分かってくれない。でも、“その人”だけは理解してくれている。これが全て思い込みだということに、人は人生のある段階で突然気付く。

自分は他人のことを知った気になっていただけだし、他人は自分の卑小さを実はよく感じ取っている、そして理解者だと思っていた“その人”とは、実は何もわかり合えてなどいなかったということがいつか分かる。

今作に書かれているさまざまな苦悩や生きづらさ、自意識の問題は、著者自身が内に抱えているものだろう。人に見せたくない内面を真摯に掘り下げる力は、純文学作家の肩書きに相応しい。

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