図説「最悪」の仕事の歴史

トニー・ロビンソン『図説「最悪」の仕事の歴史』

人間は有史以来、さまざまな仕事を生みだしてきた。この本(”The Worst Jobs in History”)が取り扱うのは、古代ローマから近代までの西洋における“最悪の仕事”の歴史。著者は、現代でいう「危険」「汚い」「きつい」の3Kに、「退屈」と「低収入」の二つを加えた3K2Tの仕事の数々を紹介している。

死と隣り合わせの「ウミガラスの卵採り」や、かつて医療に欠かせなかったヒルの採集者、延々と数字の転記を続ける「財務府大記録の転記者」、王の下の世話をする御便器番、医療の発展に大きく貢献した「死体掘り起こし人」(盗掘された遺体が医学校の解剖実習などに使われた)、悪臭漂う下水から金目の物を探し出す「どぶさらい」、ペストが大流行した時代の「死体取り調べ人」、小柄な子供に任され命の危険もあった「煙突掃除人」や「精紡機掃除人」などなど。

ジョージ王朝時代、貴族の庭の“飾り”として流行した「隠遁者」(その名の通り何もしない人を雇って庭の隅に何年も住まわせる)や、勝手に民家の庭を掘ることが認められていた「硝石集め人」(火薬に使う硝石は尿がしみこんだ土壌から採集された)など、現代からは想像も出来ないような仕事も多い。

そうした仕事の中でも、著者は、悪臭にまみれての重労働である「縮絨職人」や「皮なめし職人」を最も苦しい仕事として挙げている。かつては作業に必要なアルカリ性溶液として糞尿が使用され、仕事の厳しさに加えて彼らは洋の東西を問わず地域社会からの差別にも晒された。

どんな仕事でも誰かがそれをやったから今の社会がある。未来が今よりも良くなると脳天気には思わないが、過去が今より幸せな時代だったなんてことは絶対にない。児童労働は違法になり、本書で紹介されている“最悪の仕事”のかなりの部分が技術革新で省力化された。

本書は英国のテレビ番組を下敷きとした本で、番組では著者自身が幾つかの仕事を実際に体験してみたらしい。本の記述は仕事内容の紹介にとどまっているが、もう少し体験記風の描写があれば、より面白い読み物になったかも。

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