W.ウェストンの名前は山歩きをする人間なら一度は聞いたことがあるだろう。明治時代の日本に滞在し、アルプスを中心に各地の山々を踏破した。日本の山の魅力を世界に知らせるとともに、修験道などの宗教登山ではない“趣味”としての登山を日本に浸透させた。
“Mountaineering and exploration in the Japanese Alps(日本アルプスの登山と探検)”はその代表作で、初めて槍ヶ岳や立山などを旅した時の情景が克明に記録されている。
日本の近代登山黎明期の様子が分かるとともに、失われた日本の山村の様子が目に浮かび、旅行記としても非常に面白い。会話も内省もほとんど無いシンプルな文章が、映像のように往時の姿をよみがえらせる。
時間や約束にルーズな日本人に頭を抱え、ガイドの頼りなさを嘆いている様子は現代のインド旅行記のよう。田舎の人々の礼儀正しさと親切心に感動しつつ、旅館でのぞき見してくる群衆に辟易し、プライベートな空間の無さを嘆く。ただ文化に優劣を付けるような視点は無く、日本の旅を心から楽しんでいる様子が伝わってくる。
疲れを吐露するような記述がほぼ無いため、まるで平地の旅行記のようにすらすらと読んでしまうが、改めてウェストンの足取りを確認すると、その健脚ぶりに驚嘆させられる。