著者の加村一馬氏は1946年、群馬県生まれ。13歳の時に、両親の虐待から逃れて足尾銅山の廃坑に住み着き、その後も富士の樹海や川辺を転々として、ホームレスとして半世紀近くを生きてきた。
ヘビやネズミ、カタツムリ、カエルを食べ、時には山で採った山菜を売ってわずかな収入を得る。やがて茨城の小貝川の河川敷に小屋を建てて暮らすようになり、57歳の時に窃盗未遂で逮捕され、取り調べと公判を通じて半生が明らかになった。
聞き書きのスタイルで書かれており、編集者によるインタビューを通じて記憶が再構築されたと思しき箇所もあるが、そこに語られている半生は壮絶。実体験に基づくサバイバル術の描写にも圧倒される。
2004年刊行の単行本は、執行猶予付きの判決を受けた加村氏が、川辺で暮らしていた時に知り合った男性の支えで社会復帰した場面で終わっているが、文庫版では「その後」が加筆されている。そこには、他者から逃げて人生の大半を生きてきた男性が社会になじもうとする苦しみが綴られている。
どんな環境でも生き抜くことができる人間の強さとともに、「恐怖には耐えられるけど、寂しさには耐えられない」という言葉が強く印象に残った。裏切られ、失う寂しさに耐えられないからこそ、人は人を遠ざけてしまう。一人で生きていけたらどんなにか楽だろう。山や洞窟で原始的な生活を送りながらも、人は完全な孤独の中で生きることは出来ない。