日本推理作家協会「ミステリーの書き方」
現役ミステリー作家に、プロット、人物描写、トリック等さまざまな観点から創作手法を聞き、寄稿とインタビューでまとめた一冊。綾辻行人や有栖川有栖ら新本格派から、東野圭吾、石田衣良といったジャンル横断型、大沢在昌、船戸与一らハードボイルド系まで、顔ぶれも豪華というか主要作家はほぼ網羅。書き方指南というより、それぞれの作家の小説観や創作姿勢が伺えて面白い。経歴を並べるよりも雄弁な作家名鑑になっている。
北方謙三が中上健次の「岬」を評して、観念も無いし文章も下手だけど、生命のきらめきみたいな「真珠のひと粒」をつまみ出していて、これこそ文学、自分にはそのひと粒がつまみ出せない、と書いていたり、小説好きならミステリーに興味がなくても楽しめるのでは。
他に森村誠一の、ミステリーは人権保障の指数で民主主義社会でこそ発展するという言葉も印象的。たしかにロシア的倒置法(アメリカではあなたが小説を書く―ソビエトロシアでは小説があなたを書く!)の社会ではミステリーは成り立たない。
Kindleのセールで買った1冊だけど大当たり。こんな感じで純文学も含めた全ジャンル版がほしい。