船戸与一「夢は荒れ地を」
カンボジアを舞台に、人捜しから始まった物語は、人身売買、汚職、地雷撤去を巡る利権争いなど、国家と人間の闇に深く分け入っていく。元クメール・ルージュらの新たな村作り、識字率を上げようと奮闘する日本人、そしてもう一人……。カンボジアの闇に取りつかれ、夢は荒れ地を駆け巡る。
カンボジアというと、日本ではとにかくクメール・ルージュによる虐殺のみが繰り返し語られ、その後について語られることは少ない。フィクションという手段で現代カンボジアの影を徹底的に描き出そうとする著者の筆は鋭い。スケールの大きさと巧みなストーリーテリングに、久しぶりに物語にどっぷりと引きこまれた。